少年は
少年には絵を通してだけ見たことのある景色があった。
それは彼の目を奪うには余りにも容易だと言わんばかりの淡いタッチで、鮮やかに描かれていた。
見惚れているだけで、自分には才能はなく同じ景色は描けないと諦めた過去があった。
青年になった彼には心に突き刺さって何度も再生する曲があった。
それは彼の深い部分を刺激して、それだけで生きていけると思わせた。
ある時はヘッドフォンで、ある時にはスピーカーで、笑ったり泣いたりしながら一緒に歌っていた曲があった。
大人になった少年のそばには、手を伸ばせば届く距離なのに触れられない不思議な花がある。
それは彼が生きた中で眺めてきたどんな花よりも崇高な色をしていて、彼の心を捕らえて離さない。
でもきっと彼は、分かっている。
少年は、人生において寄り添うべき大切なものに出逢うまで歩き続ける。
彼がそれに出逢ったなら、きっとあたたかく優しく抱きしめて離さない。