輪郭
好きだった心の温度や、吸い終わったハイライトのパッケージの端に書かれた言葉、楽しそうに揺れるバンドのTシャツ、甘いカルピスソーダの炭酸に歪んだ顔、足を運んだアーティストの演奏も、あの夏に語り合った未来さえ、今は何処かの岸に見る影も無く打ち上げられている。
夢を見たあとの余韻に心が引っ張られるのとほぼ同じ見た目のそれは、宙ぶらりんにさせられた頭に時折ふっと浮かんでは少し細くなったこの首を爪痕が残る程締め付けてくる。
でも、思い出すのは記憶の表情ではなく、輪郭。
等身大で、両手から溢れない大きさの幸せなら?
別の街であの温度に触れたい。
若しくは触れたことのない心地の良い風に身を委ねたい。
このまま歩き続けて、僕は胸を焦がす何かに出逢えるのだろうか。
こんな衣服で、心許ない荷物で、辿り着けるのだろうか。
きっと素敵な景色をこの目に見るまで、取り敢えず歩いてみるよ。