水色メランコリー

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「異類婚姻譚」

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ずっと読みたかった本谷有希子女史の「異類婚姻譚」、漸く読むことができました。

芥川賞受賞作の表題作を含め、「トモ子のバウムクーヘン」「〈犬たち〉」「藁の夫」の4篇が収録されています。

 

『ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた』という、一見"夫婦は似てくる"という幸せを謳ったように見える一文から始まる「異類婚姻譚」。2匹の蛇が輪になり互いを食べ合う"蛇ボール"の話が印象的でした。

「藁の夫」は文字通り人間の形をした藁と結婚した女性の話。終盤の展開は本当に恐ろしい。

この2つの作品は、どちらも"夫婦"を題材とし、SFやホラーのテイストも漂わせながら"他人との共同生活の異常さ"を鋭角に、時に不気味に描いています。とても面白かった!ただ、仮にこの作品たちを読んで「全く共感したわ」という女性と結婚したなら、果たして幸せな生活は長く続くのか…いや冗談です(笑)

行き過ぎた表現ではあるけれど、大なり小なりハッとさせられる部分はあるはず。

「トモ子のバウムクーヘン」は2児の子どもを持つ主婦がお菓子作りの際にふと感じた心象風景を描いた作品。幸せなはずなのに殺伐とした、でも共感できる部分もある痛烈な短編だと感じました。

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この小説に描かれる4つの物語を読んで感じたのは、夫婦や家族という幸せな共同生活の中にいるはずなのに、自分自身の存在理由が分からなくなる恐怖、"結婚"というある種の制約の中で望んだものと違う生活に対する閉塞感、そしてその相手に対する内なる攻撃的側面。

イムリーでもあり、俯瞰的に自分を見つめ直す機会にもなりましたし、他人と生活をすることの難しさを再認識し、これからの自分の未来に対しての憂いを抱かざるを得ませんでした。

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どうかこの傑作が沢山の人に読まれ、それぞれの決別の助長にはならず寓話になりますように。